「大学・高専連携事業基金」事業(共同研究)研究実績

掲載日:2024年8月31日

研究課題(令和5年度開始分)

No.研究概要研究代表者連携先
1BOS法による超音速定常流れの3次元密度場再構成の高解像度化に関する実験的研究航空宇宙工学コース・准教授
宇田川 真介
東京都立大学大学院 システムデザイン研究科航空宇宙システム工学域・准教授
嶋村 耕平
2骨再生scaffoldへの応用を目指したリン酸カルシウム系多孔体の機械的特性の向上と生体親和性評価医療福祉工学コース・准教授
杉本 聖一
東京都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域・教授
小林 訓史
3視覚・動作誘導による自動車の乗降支援の研究医療福祉工学コース・准教授
古屋 友和
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域・教授
樋口 貴広
4個性モデルを適用した因子解析による個別リコメンド手法の開発情報通信工学コース・教授
山本 昇志
東京都立大学大学院 システムデザイン研究科情報科学域・教授
高間 康史
5ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響に関する研究医療福祉工学コース・准教授
杉本 聖一
東京都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域・教授
小林 訓史
6超音速噴流の流れ場の生じる渦の定量的計測の試みと特性の解析機械システム工学コース・准教授 
工藤 正樹
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 
小方 聡

BOS法による超音速定常流れの3次元密度場再構成の高解像度化に関する実験的研究
・実施期間:2023年4月~2024年3月
・研究代表者:
【教員】高専 航空宇宙工学コース 准教授  宇田川 真介
【学生】高専 専攻科創造工学専攻 機械系コース 1年 石橋 歩武
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院システムデザイン研究科航空宇宙システム工学域 准教授 嶋村 耕平
【学生】都立大学大学院システムデザイン研究科航空宇宙システム工学域 博士前期課程1年 黒坂 洋平
   都立大学大学院システムデザイン研究科航空宇宙システム工学域 博士前期課程1年 飯田 真祥

研究成果

 従来高速流れの可視化にはSchlieren法が広く用いられてきたが、実験系が複雑な上に定量的な可視化計測ができないというデメリットが存在した。これを解消する方法として近年提案された手法がBOS(Background Oriented Schlieren)法である。BOS法はデジタルカメラで撮影した現象背後の背景画像パターンの変位をコンピュータープログラムで求める方法であり、複数の移動量検出手段が提案されている。S-BOS(Simplified BOS)では、背景として輝度が空間方向に正弦波となるパターンを用い、基準画像と実験画像の位相差を求めることで移動量を検出した。この手法は補完が不要であり処理も比較的高速というメリットが存在するが、移動量が±πradを超過すると位相が反転するためパターンの空間周波数に限界があるという短所が存在した。これを解決する方法として位相確認用の低周波成分を組み合わせた複雑な背景パターンの利用が提案されているが、プロジェクターの利用が前提であり、印刷で再現することが困難である。SP-BOS(Stripe pattern BOS)では、背景として輝度が空間方向に矩形波となるパターンを用い、閾値によって縞の座標を求めることで移動量を検出する。この手法は背景パターンが単純なため印刷に適しているが、補完が必要であるという短所が存在する。
 本研究では、SP-BOSと同様の矩形波パターンを、フーリエ級数展開に基づき複数の正弦波の重ね合わせと考え、複数の成分に分解することで低周波成分と高周波成分を同時に取得することが可能であるか、超音速風洞内に設置した円錐模型周辺の流れの可視化を通して実験的に検証した。また、得られた結果を評価するためにSP-BOS法との比較及び理論密度比との比較を行った。
 実験には東京都立大学が保有する超音速風洞を用い、流路中心に半頂角15deg、直径15mmの円錐模型を設置し、マッハ数M=2.2で静定時間が3秒間になるように通風を行った。通風前に基準画像を、通風中に実験画像の撮影を行い、FS-BOS法及びSP-BOS法を用いて移動量の解析を行った。
 結果として単純な縞を用いた背景画像から複数の周波数成分の正弦波信号を取り出し、S-BOS法に基づく処理で移動量を検出するFS-BOS法を開発し、その動作を検証できた。複数の周波数成分から得られる結果を組み合わせることが可能になり、高い空間周波数の現象の測定と大きな密度勾配の測定の両立の可能性が示された。また、これらから得られる結果が従来のSP-BOS法と矛盾せず、理論値との比較においても-6%から+4%程度の一致をすることが示された。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)

 他大学への進捗報告会へ定期的に参加し、発表や議論の場を提供して頂くことで学生に自身の研究を定期的に外部から評価してもらう場を与えて頂き、院生や研究者との議論を通してエンジニアリングデザインの授業を通して身につけたグループワークに対する理解をさらに深化させ、研究能力や新規技術開発力の醸成を図ることができた。さらに他大学の院生や先生方とのディスカッションや、大学院生からの指導・協力により国内有数の実験設備を使用させて頂けたことは学生に大きな刺激とモチベーションを与え、学生自身の大学院進学先の選択に大きく影響した。
 本事業による研究で得られた成果は、学生自身が第一著者として国内学会にて1件、国際学会にて1件の発表を行い。他にも研究協力者として1件の計3件学会発表を行い、日本語のみならず英語で様々な研究者との意見交換を実施したことで大きな自信を得た。またこれらの成果に基づき、2023年度末をもって専攻科を修了して学位取得に至っている。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)

1.‘Density Measurement of Underexpanded Jet by Stripe Patterned Background Oriented Schlieren Using Ronchi Ruling as Background’, A. Ishibashi, Y, Inoue, S. Udagawa, Y. Katagiri, N. Kosaka, M. Yamagishi, M. Ota, Y. Hirose, Proceedings of the 33th International Symposium on Shock Waves, to be appeared, Daegu, Korea, July, 2023.
2.‘超音速風洞を用いた軸対象物体周りのBOS法による可視化計測’,石橋歩武,廣瀬暁一,村松武明,黒坂洋平,嶋村耕平,山岸雅人,廣瀬裕介,太田匡則,稲毛達朗,宇田川真介,2023年度衝撃波シンポジウム講演論文集,Paper No. P-12,北九州国際会議場,2024年3月.
3. ‘デトネーション促進構造物の最適化によるDDT距離短縮に関する実験的研究’,吉田裕也,森山大地,石橋歩武,宇田川真介,2023年度衝撃波シンポジウム講演論文集,Paper No. P-06,北九州国際会議場,2024年3月

●骨再生scaffoldへの応用を目指したリン酸カルシウム系多孔体の機械的特性の向上と生体親和性評価
・実施期間:2023年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 杉本 聖一
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 1年 小薗井 一輝
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 小林 訓史
【学生】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士後期課程3年 図所 優羽
   都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 関根 たくみ  
   都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 清水 康佑
   都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 苅谷 香槻

研究成果

 近年、高齢化社会の進展にともない、骨疾患などによる骨欠損が増加している。骨は欠損部では骨再生が起こらず、骨細胞や血管が成長する足場材(Scaffold)が必要である。骨再生の足場材は主に自家骨と人工骨があるが、自家骨は自身の骨を取り出して移植するため侵襲性が高く負担が大きい。このため、特に高齢者の骨再生手術には自家骨移植は向かないとされている。臨床実績の豊富さから従来は自家骨移植がスタンダードであったが、前述の問題や人工骨材料の改良もあって人工骨移植が急増しており、2006年で既に移植の40%以上が人工骨に置き換わっている(占部ら,2006).骨再生scaffoldとして開発されたのがリン酸三カルシウム(β-TCP)を多孔質化したオスフェリオン(R)(オリンパステルモバイオマテリアル(株))である。β-TCPは生体内で分解され最終的には完全に生体骨に置き替わるが、初期強度が低いという問題点があり、気孔率を上げることができない。骨補填材は一般に気孔率が高いほど骨再生能に優れるため、高強度と高気孔率を両立させることは極めて重要である。
 こうした問題に対し、本研究グループは水熱ホットプレス法と呼ばれる特殊な合成・成形方法を用いて、β-TCPと水酸アパタイト(HA)を複合させた多孔質TCP・HA複合材料を合成することに世界で初めて成功した。これはβ-TCPの欠点である強度の低さを、より高強度なHAと複合して解消することを狙っている。本年度の研究では、より反応効率を高めた新規水熱ホットプレス装置を使って試料の作製を行い、高強度と高気孔率の両立に向けた適切な合成条件について調査を行った。その結果、従来の装置とは適切な合成条件が大きく異なることが明らかになった。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
小薗井一輝(研究代表学生)、杉本聖一、田宮高信、鈴木拓雄、小林訓史、“ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響”、第42回数理科学講演会, 2023.8.26

研究成果の社会還元、今後の展望について

 今回得られた研究成果の一部は、既に第42回数理科学講演会にて発表しており、来年度は国際会議にて新しい知見も加えて発表する予定である。
 本年度の研究により、一部の合成条件は明らかになったものの、未だ新規装置での適切な合成パラメーターについては明らかになっていない部分が多い。今後はより適切な条件で合成を行うために、種々の合成時パラメーターと強度、気孔率との関係だけでなく、電子顕微鏡による内部構造の変化、XRD解析による組成変化等についても調査し、新規装置での合成メカニズムを明らかにする。これにより、高強度・高気孔率な骨補填材の開発に向けて大きく進展が期待される。

●視覚・動作誘導による自動車の乗降支援の研究
・実施期間:2023年4月~2025 年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 古屋 友和   
【学生】高専 専攻科 創造工学専攻1年 岡根 永将
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院 健康福祉学部人間健康科学研究科 教授 樋口 貴広
【学生】都立大学大学院 健康福祉学部人間健康科学研究科 博士後期課程1年 菊地 謙
   都立大学大学院 健康福祉学部人間健康科学研究科 博士前期課程2年 坂崎 純太郎

研究成果

 自動車の乗降は、車の使用において最も身体的負荷の大きい動作であり、特に筋力の弱い高齢者には大きな負担となっている。乗降時の負荷を低減により、今後の高齢社会にむけた生活の質の維持・向上への貢献に期待できる。乗降性の研究は、その殆どが動作の分析であるが、狭い場所に入るなど姿勢変化して移動するには、状況を知覚して行動を予期的に調整する必要があり、その調整には、視覚情報が重要な役割を持っている。そこで本研究は、視線に注目し、乗車時の視線と動作の関係とその特徴を明らかにし、その特徴を用いて身体的負荷を低減させる方策を検討する。
 本年度は、様々な動作モードが存在し、視線移動が多いことが予想される乗車を対象として、視覚的に影響の強いルーフの高さを変化させ、そのときの視線と動作の関係を調べた。その結果、視線行動は3つのグループに分かれ、それぞれの視線行動に対応した全身動作の特徴を確認した。1つ目のグループは、車内空間を主に注視しており、動作を分析したところ、上体を後傾して乗降する傾向であった。2つ目のグループは、車内フロアを主に注視しており、動作を確認したところ全ての被験者が前傾姿勢をとっていた。障害となるルーフを注視せず、周辺視で確認していたと考えられる。3つ目のグループは車内フロアを主に注視していたが、車内空間・ドアも注視しており、動作は上体を側方に傾ける姿勢で乗車していた。以上より、視線の動きから全身動作の傾向がわかることが確認できた。次年度は、障害となるエリアを照明や色の違いなどで視線誘導させることで、各グループの動作がどのように変化するか確認し、視線誘導から身体的負荷を低減する動作の誘導方法について検討する。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
[1] 視覚情報の変化が自動車の乗車動作に及ぼす影響, 岡根 永将,古屋 友和,坂崎 純太郎,菊地 謙,樋口 貴広.日本人間工学会第65回大会, 2024年6月
[2] Relationship between gaze behavior and whole-body movement during car ingress, Eisuke Okane, Tomokazu Furuya, Juntaro Sakazaki, Ken Kikuchi, Takahiro Higuchi, 15th International Conference on Applied Human Factors and Ergonomics(AHFE 2024), July 2024

研究成果の社会還元、今後の展望について
 今後は、乗車時に障害となるエリアを照明や色の違いなどで視線誘導させることで、実験参加者の動作がどのように変化するか確認する。そして、その結果を応用して視線誘導から負荷低減となる動作を誘導の可能性を探る。視覚誘導のみでの動作誘導が難しい場合は、身体を支持するグリップ等を用いて手の位置から最適動線かつ負荷低減する動作誘導を試みる。この技術が確立できれば、人により様々な動作をする自動車の乗車において、動作誘導による安全かつ身体的負荷の低減が期待できる。また、階段や段差の乗り越えなど建物内での支援、ベットから車いすへの移乗支援などユニバーサルデザインや福祉機器に向けて幅広く応用可能なため、将来の生活支援の基盤技術として工学的な多様な発展に寄与できるものと考える。

●非侵襲な手指力覚センシングを用いた技術伝承支援システムの開発
・実施期間:2023年4月~2024年3月
・研究代表者:
【教員】高専 情報通信工学コース 教授 山本 昇志
【学生】高専 専攻科 創造工学専攻 2年 羽切 まどか
・研究協力者:
【教員】東京都立大学大学院 システムデザイン研究科情報科学域 教授 高間 康史
【学生】東京都立大学大学院 システムデザイン研究科情報科学域 修士課程1年  太田 葵

研究成果
 COVID19感染症の拡散は世の中の仕組みを一新させた出来事であった。特に教育や学習においてはWebやビデオを用いた方法が普及したが、一方で、この変化に対応できない若者が存在するため、個人の特性に合った様々な自学自習方法の提供が求められている。この課題に対応するため、本研究の目標は、個性(性格や価値観)のユーザーモデルに基づく問題解決法がリコメンド(推薦・提案)できる手法の開発である。特に、人間の個性をどのように数値化して推薦すべき特徴量としていくかが重要な研究コアである。
 このような目標に対して、性格についてはYG性格検査を用いて定量化するとともに、学習能力については計算と記憶能力に着目して、自作のWebアプリを通じて、定量化することができた。得られた両者の情報は階層クラスタリングや因子分解を行うことで相関の高い特徴量の選択が可能となった。抽出した因子ごとの相関関係において、計算記憶の両者に関連のある気分の変化であったり、計算に関連が予想される攻撃性や、記憶のみに関連が想定される協調性などの性格特徴を明らかにすることができた。
 更にこの関係を用いることで、性格に基づいた学習方法を推薦したときの評価を実施した。検証は実際の学習方法と理想と考える学習方法のアンケートに基づき実施したところ、我々が開発したシステムは理想的な方法をうまく推薦で来ていることが明らかとなった。また実際と理想が異なる部分に注目して推薦することが有意義であると考える。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
[1]Madoka Hagiri, Shoji Yamamoto, Aoi Ohta, Yasufumi Takama, “Assessing personality factors for recommendation systems of learning method”,The Conference on Technologies and Applications of Artificial Intelligence, Yunlin, Taiwan(Dec., 2023).
[2]羽切まどか, 菊地友央, 山本昇志,“学習推薦システムにおける性格潜在因子の適合評価”,インテリジェント・システム・シンポジウム, Fr-C1-1, (2023.9.8, 九州・福岡市).

研究成果の社会還元、今後の展望について
 自主学習において、性格に基づき個人の特性を考慮しながら学習方法を推薦するシステムを構築することができた。今後は応用分野を技術伝承の自主学習などに適用できるよう、集中力や忍耐力などの個性を追加しつつ、多様な推薦方法を検討していく。

●ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響に関する研究
・実施期間:2023年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 杉本 聖一
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 1年 梅埜 耕
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 小林 訓史
【学生】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士後期課程3年 図所 優羽
   都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 関根 たくみ  
   都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 清水 康佑
   都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 苅谷 香槻


研究成果
 近年、マイクロプラスチック問題や環境負荷の高さから世界中で脱プラスチックの動きが高まっている。従来のプラスチックが多くの問題を抱える一方、生分解性プラスチックは自然界の微生物によってCO2と水に分解される性質を持ち、さらにバイオマス由来であればカーボンニュートラルの特性も併せ持つことから、プラスチック代替材として大きな注目が集まっている。中でも、ポリ乳酸(PLA)は医療、自転車、電化製品、食品などの各産業で使用が始まっている。しかしPLAの応用範囲が拡大するにつれ、破壊特性に注目した研究も進んでおり、PLAは脆性的な破壊挙動を示すことが明らかになってきた。また、PLAは軟化点以上でも流動性が低く、射出成形により大量生産されるプラスチック製品としては大きな欠点を抱えている。こうした問題を解決するために当研究チームでは、これまでにPLAと同様の生分解性プラスチックであるポリブチレンサクシネート(PBS)をブレンドすることにより、強度向上と脆性改善の両立を試みてきた。本研究ではさらに成形性の改善も狙って、ブレンドポリマーのブレンド比と射出温度による機械的特性および流動性への影響を調査した。
 その結果、ブレンド比PLA:PBS=6:4のとき、流動性はPLA単体の約2倍へ上昇した。また、このブレンド比で射出温度160℃,175℃の時、理論値(PLA単体とPBS単体の引張強度を6:4にして足した値)の引張強度を上回る結果となった。この試験片の破断面を顕微鏡を用いて観察したところ、引張方向へ繊維状に試験片が伸びている様子が見られた。この他の条件で作製した試験片ではこうした破面形状がほとんど観察されないことから、前述の条件で射出成形を行ったことにより高分子鎖が特定方向に配向したのではないかと考えられる。さらに,ブレンド比が同一の6:4、射出温度185℃,195℃の時には強度が理論値以下になったことから,配向性の向上する適切な射出温度域が存在すると考えられる.また、ブレンド比6:4、射出温度175℃で成形した試験片はPLA単体の約2倍の平均破断ひずみを示しており、大幅に脆性が改善されている。
 以上の結果から、高い強度を有し、PLA単体より約2倍の延性と約2倍の流動性を持つPLAブレンドポリマーの作製に成功した。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
梅埜耕(研究代表学生)、杉本聖一、田宮高信、鈴木拓雄、小林訓史、“ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響”、第42回数理科学講演会, 2023.8.26

研究成果の社会還元、今後の展望について
 今回得られた研究成果の一部は、既に第42回数理科学講演会にて発表しており、来年度は国際会議にて新しい知見も加えて発表する予定である。
本年度の研究により、高い強度を有しながら脆性および成形性も改善された生分解プラスチックを作製することには成功したが、こうした優れた特性が発現するメカニズムは未だ明らかになっておらず、従ってどのような作製条件であれば特性の発現が起きるか明確になっていない。今後は、高い強度と優れた延性および成形性を発揮するメカニズムを解明し、より高性能な生分解性プラスチックの開発に結び付けていきたい。現在は脱プラスチックの動きが加速する一方でその代替材の開発が十分に進んでいないが、本研究の進展がそのブレイクスルーとなる可能性がある。

●超音速噴流の流れ場の生じる渦の定量的計測の試みと特性の解析
・実施期間:2023年4月~2024年3月
・研究代表者:
【教員】高専 機械システム工学コース 准教授 工藤 正樹
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 2年 伊東 宏起
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 小方 聡
【学生】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 小森 愛也


研究成果
 レーザー加工時の溶融物除去を目的としたアシストガスや熱強化ガラスの製造時の冷却ガスなど、超音速噴流が幅広い分野において用いられている。その際に生じる高周波音が加工効率や加工品質に悪影響を及ぼすため、高周波音を理解し制御する必要がある。ノズル出口付近における超音速噴流と周辺空気との間の速度差によるせん断力により生ずるじょう乱が噴流の周りを下流に移動しながら渦へと成長し、この渦が噴流中の衝撃波と干渉することで高周波音が生じるとされている。しかし現状では、この渦の移動速度や周波数などを定量的に計測および解析できる手法がなく、高周波音と渦の関係を定量的に評価できなかった。そこで本研究では矩形噴流を対象として、超音速噴流の周辺を移動する渦に注目し、レーザーと光学センサーで構成される計測システムを用いることで、渦の挙動について定量的な調査を試みた。
 その結果、超音速噴流の周辺を移動する渦の移動速度を定量的に捉えることに成功した。具体的には、渦の平均移動速度は、ある一定の距離までは噴流の速度に依存せず概ね一定であることがわかった。また渦は、噴流中心軸に対しておよそ半周期ずれて下流へ移動することを示した。これは矩形噴流が左右に揺らぐ振動を引き起こす要因の一つであると考えられる。最後に渦の移流マッハ数は完全膨張時の噴流マッハ数の0.5倍程度であることを明らかにした。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
1.”Study on Periodic Behavior of Vortices Moving Around Supersonic Jets”, Koki ITO, Hiromasa SUZUKI, Masaki ENDO, Yoko Sakakibara,3-05-3-01,ASME-JSME-KSME Fluids Engineering Division2023, July, 2023

研究成果の社会還元、今後の展望について
 超音速噴流の流れ場に生じる渦の定量的な計測法が確立されることで、超音速噴流の挙動や高周波音の誘起メカニズムの解明が進むことにより、流体力学への学術的な貢献ができる。さらに超音速噴流を利用している様々な工業分野において、加工効率向上や品質向上などに貢献できる。
 今後は、本研究で得られたデータを活用して超音速噴流に関する数値シミュレーションモデルを高精度化することや、高周波音を低減するための渦制御手法を提案するなどを検討している。

お問合わせ先
東京都公立大学法人 経営企画室 企画財務課
電話 03-5990-5388