公立大学法人首都大学東京「100歳大学」特別講演会 リンダ・グラットン氏 基調講演について

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 公立大学法人首都大学東京では、生涯現役都市の実現に向けた「100歳大学」の取組として、「TMUプレミアム・カレッジ」(首都大学東京)、「AIITシニアスタートアッププログラム」(産業技術大学院大学)等、意欲あるシニア層向けの教育プログラムを開講しています。

 この度、こうした「100歳大学」の取組の一環として、世界的大ベストセラー「LIFE SHIFT」により人生100年時代の生涯を通じたブラッシュアップを提唱するリンダ・グラットン氏(ロンドン・ビジネススクール教授)を招いた特別講演会を開催しました。

 多くの方からお申し込みいただき、一般公募による抽選の結果、300名を超える方にご来場いただき、大盛況となりました講演会の概要をご報告します。

講演プログラム

12月4日(水)15:30〜17:00 於:丸の内MY PLAZAホール
講演テーマ:「人生100年時代の学び方、働き方」
主催:公立大学法人首都大学東京 協賛:明治安田生命保険相互会社

  1. 東京都知事 小池百合子様 挨拶
  2. 公立大学法人首都大学東京 理事長 島田晴雄 挨拶
  3. 明治安田生命保険相互会社 取締役会長 代表執行役 鈴木伸弥様 挨拶
  4. ロンドン・ビジネススクール教授 リンダ・グラットン氏 基調講演
  5. 公立大学法人首都大学東京「100歳大学」取組紹介

オープニング

来賓挨拶

 小池百合子都知事から、人生100年時代において、60代、70代は「老後」ではなく、むしろ人生の後半戦が「スタート」する年代であり、都では高齢者のチャレンジを後押しする環境づくりに積極的に取り組んでいる。特に学びの場は重要と考え、法人の「100歳大学」では、実際に60代、70代をはじめ80代の方々が「生涯現役」を合言葉に、若い世代の学生とともに、意欲的に学ばれていることに触れ、引き続き、都としても取組をバックアップし、皆様の学びをサポートしていくとのご発言をいただきました。

 また、「長寿(Chōju)」という日本語は、ただ長い時間を生きるということではなく、「寿」は「happiness」という意味が含まれ、高齢化をポジティブに捉えた素晴らしい言葉であり、都が策定中の長期戦略においても重要な視点、キーワードとして位置づけ、「世界共通語」にしたいと考えている。健康で長生きする、そのために自分磨きを最後まで行い、学び自らを磨きあげていく、そのことが「長寿」の秘訣であり、長寿に向けた都政を皆様と進めてまいりたいとのお話をいただきました。

主催挨拶

 法人理事長の島田から、先進諸国の中でも日本が最高齢化国であり、多くの問題に直面する中で、都政の戦略的なシンクタンクでもある公立大学法人首都大学東京が、生涯学ぶことが出来る「100歳大学」の取組の一つとして、新たに「TMUプレミアム・カレッジ」を開講し、充実を図るなど、都立の高等教育機関として実施している先端的な取組を紹介しました。

 また、リンダ・グラットン氏の著書「LIFE SHIFT」について触れ、高齢化は社会負担が増える面もあるが、対応の仕方によっては恩恵に変えられるとし、恩恵にするために何をしたらよいのか、本日の講演会からそのヒントを得てほしいと講演への期待感を述べました。

協賛挨拶

 ご協賛いただいた鈴木取締役会長代表執行役からは、本講演会にご協賛いただいた背景についてお話しいただき、2019年4月に明治安田生命保険相互会社が開始した取組である「健活プロジェクト」についてご紹介いただきました。

リンダ・グラットン氏 基調講演 要旨

挨拶

  「The 100-Year Life」は、「世界が類まれな変換点に立っている」という着想から始まっている。平均寿命の延伸、ロボット等の最先端技術、先ほど挨拶のあった女性初の都知事である小池知事や他の多くの女性達による女性の働き方等が、日本や世界を変えつつある。

 私が今、日本にいるのは、皆様が著書「The
100-Year Life」を愛してくださったためであり、それは日本が世界のどの国よりも「長寿国」であるからだと考えている。

 本日は、「The 100-Year Life」の内容を中心に、その他にも、皆様また、日本が模索している事象について、お話させていただく。

※「The 100-Year Life」 「LIFE SHIFT」の原著名

世界から日本への期待

 世界の全ての国が人口の転換点を迎えている。人口の転換点とは、「どのくらい生きるか」、「一家族に何人の子供を持つか」の2つの要素があり、これは人口における平均年齢に大きく関係してくる。

 その中で、日本が直面している少子高齢化は、今後、世界の全ての国々で生じてくるため、日本で、東京で、そしてこの素晴らしい大学で起こっていることは、世界中から注目されている。

「The 3-stage Life」の変容

 65歳で死ぬと考えたとき、これまでの「教育」、「仕事」、そして「退職」という3つのステージはうまく機能してきた。そのため、様々な社会制度の枠組みは、3つのステージに沿って構築されてきた。

 人間の知恵は、人々に長寿をもたらすテクノロジーを生み、人生100年の時代となったが、私たちを取り巻く社会制度は3つのステージを中心に構築されたままであり、100年時代に対応した社会制度は十分でない。

そのため、制度を変革し、世界を変えていくことが重要である。

健康の重要性

 遺伝子から染色体を分析すれば、身体年齢が実年齢より若いのか、年老いているのか知ることができる。例えば、幼児や青年期までは、みな同じように見えるが、60歳まで生きた場合、若々しく見える人と老けて見える人がいる、この点が重要である。

 加齢過程において、遺伝子への依存は25%程度であり、残りの75%は自分自身の人生の選択によるものである。つまり、年齢の重ね方は自らの選択でコントロールでき、「どのように生きるか」(いかに加齢していくか)が重要になってくる。

 人生100年時代になった今、長寿の為に健康的な生活を送るという選択肢への関心が高まっている。日本が長寿国になった理由は、一般的に日本人は太りすぎていないと考えられる。肥満は、世界の他の国々で大きな問題になっているため、日本が世界に何かを輸出するとすれば「いかに健康を保つか」というノウハウである。 世界の人々は日本人がなぜそこまで長寿になっているのかに関心を示している。

人生を通して学び続けることの重要性

 AIやロボットが発達し、人間の行う仕事は変容しているが、私たちが将来全ての仕事を失うとは考えていない。歴史的に見て、テクノロジーは破壊と同じくらい新たな仕事を創造してきた。テクノロジーの進化が私たちの仕事に与えたインパクトは大きいが、機械にできること、人間に残されたことを考える必要がある。人間が得意な点は2つある。

 一つは、ソーシャルスキル(共感・感情的知性・傾聴)である。

 もう一つは、認知技能、批判的思考、未来を創造する力である。

 これら2つの領域を伸ばしていくためには、健康的な脳をもつこと、働き方を変えることが必要であり、人生を通じた学びが鍵となる。

 だからこそ、公立大学法人首都大学東京で生涯学べる「100歳大学」が創立されたことは非常に重要なことである。

 世界中のすべての人々が自分の望む人生を送ることができるか、人生を通して学ぶことができるか、健康かつ幸福でいられるか、この3つを自分自身に問いかけていく必要がある。

無形財産の大切さ

 3つのステージの人生では、フルタイムの教育であり、フルタイムの就業であり、フルタイムの退職であり、教育とは学ぶことで、就業とはお金を稼ぐことで、退職とは楽しむことだった。

 長く生きる人生では、お金という有形財産だけではなく、無形財産がとても大切になる。健康であり続ける努力、学び続けること、仕事を続けること、人とのかかわりを持つことは、100年の人生を幸福にすることに大きな影響を及ぼす。

 私たちには沢山の時間と選択肢がある、皆様がどのような選択をなされるのか世界の目が日本に注がれている。