「大学・高専連携事業基金」事業(共同研究)研究実績

掲載日:2025年6月24日

研究課題(令和6年度開始分)

No.研究概要研究代表者連携先
1共鳴トンネルダイオードを用いたテラヘルツ送信器・受信器に関する研究AIスマート工学コース
准教授
浅川 澄人
東京都立大学大学院システムデザイン研究科電子情報システム工学域 教授
須原 理彦
2廃材のリサイクルに向けたHHP法による再生構造材の開発と材料特性の解明医療福祉工学コース
准教授
杉本 聖一
東京都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 教授
小林 訓史
3非侵襲な手指力覚センシングを用いた技術伝承支援システムの開発情報通信工学コース
教授
山本 昇志
東京都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 教授
長谷 和徳
東京都立大学大学院システムデザイン研究科情報科学域 准教授
下川原 英理
4粘菌モデルにより構成されるネットワークの耐故障性電気電子工学コース
教授 
山本 哲也
東京都立大学大学院システムデザイン研究科情報科学域 教授
會田 雅樹
5触覚刺激を用いた自己運動感覚による自動車運転時の速度感の制御医療福祉工学コース
准教授
古屋 友和
東京都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授
樋口 貴広
6骨再生scaffoldへの応用を目指したリン酸カルシウム系多孔体の機械的特性の向上と生体親和性評価医療福祉工学コース
准教授
杉本 聖一
東京都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 教授
小林 訓史
7視覚・動作誘導による自動車の乗降支援の研究医療福祉工学コース
准教授
古屋 友和
東京都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授
樋口 貴広
8ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響に関する研究医療福祉工学コース
准教授
杉本 聖一
東京都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 教授
小林 訓史

●共鳴トンネルダイオードを用いたテラヘルツ送信器・受信器に関する研究
・実施期間:2024年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 AIスマート工学コース 准教授  浅川 澄人
【学生】高専 創造工学専攻 電気電子工学コース 2年 佐藤 夏音
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院システムデザイン研究科電子情報システム工学域 教授 須原 理彦
【学生】
都立大学大学院システムデザイン研究科電子情報システム工学域 博士前期課程2年 下川床 聖
都立大学大学院システムデザイン研究科電子情報システム工学域 博士前期課程1年 羽鳥 雅人

研究成果
 近年5Gを超える無線通信システムであるBeyond 5Gや6Gが盛んに研究・開発されており、より高速で大容量な無線通信実現のために300GHz〜3THzのテラヘルツ帯の無線通信応用が期待されている。そのための送信器や受信器の開発においてキーデバイスと期待されているのがトンネル効果を利用した量子効果デバイスである共鳴トンネルダイオード(RTD)である。しかし、その物理的特性や、送信器や受信器応用した際の動作限界については、まだ完全には解明されていない状況にある。
 RTDの物理特性を明らかにするために量子輸送モデルを導入した理論解析モデルを構築し、高周波測定結果と量子輸送モデルとの整合性を検証した。また、RTDを用いた送信器・受信器の動作予測や限界性能を明らかにするために、量子輸送モデルを組み込んだ新たな解析手法を提案・検証した。さらに、RTDとボウタイアンテナを一体集積したテラヘルツ送信器を開発し230-270GHz帯での動作特性を評価した。また、RTDと同種の量子効果デバイスであるバックワードダイオードを用いた300GHz帯受信器の開発と特性評価も実施した。
 結果として、量子輸送モデルによってRTDのバイアス電圧が微分負性抵抗領域内での高周波測定結果を精度良く再現できることを明らかにした。量子輸送モデルを組み込んだ新たな解析手法に関しては、従来の等価回路モデルでは予測できなかった非常に高速なオーバーシュートや減衰振動が起こる可能性を予測した。テラヘルツ送信器に関しては、バイアス電圧依存性のあるテラヘルツ発振と放射を確認し、300GHz帯での利得特性を明らかにした。300GHz帯受信器に関しては、ボウタイアンテナ構造で55dBm/m²の直線偏波照射に対して最大60mVの出力電圧を達成した。また、ログスパイラルアンテナ構造では3Dプリンタで作製した直線偏波-円偏波変換素子を用いて右旋円偏波と左旋円偏波を照射した際にアンテナ形状によって右旋と左旋を選択できることを明らかにした。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究代表者(学生)はこれまで高速動作可能な化合物半導体を用いた共鳴トンネルダイオード(RTD)の動特性解析手法の検討を行ってきた。特に、研究代表者(教員)および研究協力者とが共同で実施してきたRTDの動作を決めている量子輸送モデルをRTD発振回路のRTD部分に適用し回路の時間領域解析と量子輸送モデルを連成した新たな解析手法を立ち上げた。また量子輸送モデルで用いる4つの量子輸送パラメータには、高周波測定結果から抽出したものを適用した。こうした解析手法の検討結果を国際会議15th Topical Workshop on Heterostructure Microelectronics(TWHM2024) へ投稿し、査読を通過したためポスター発表を行った。国際会議後も精力的に研究し、それらの研究成果をまとめ、特別研究審査会を経て、学士(工学)が授与された。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
[1] “Experimental evaluation of bias-dependent 230-270 GHz oscillation and gain performance in InGaAs/InAs/InAlAs/AlAs triple-barrier resonant tunneling diodes with bow-tie antennas,” M.Hatori, J.Wakayama, T.Makino, M.Suhara, K.Asakawa, I.Watanabe, K.Akahane, 15th Topical Workshop on Heterostructure Mictroelectronics (TWHM2024), 4-3, August 2024.

[2] “A novel method of time domain analysis combining theoretical model of I-V characteristics and quantum transport model for InGaAs/InAlAs triple barrier resonant tunneling diodes,” N.Sato, K.Asakawa, M.Suhara, 15th Topical Workshop on Heterostructure Mictroelectronics (TWHM2024), 4-5, August 2024.

[3] “Measurements and analysis of zero bias detection rectennasfor 300 GHz band by using GaAsSb/ InGaAs backward diodes with integrated bow-tie or log-spiral antennas,” H.Shimokawadoko, M.Suhara, S.Hirokawa, K.Asakawa, 15th Topical Workshop on Heterostructure Mictroelectronics (TWHM2024), 4-6, August 2024.

研究成果の社会還元、今後の展望について
 本研究成果により、高速動作可能な共鳴トンネルダイオード(RTD)の物理的特性の解明およびRTDを送信器・受信器応用した際の限界性能に物理的特性がどのような影響を及ぼすのかを解明することにつながる。さらにRTDの量子輸送モデルは他のトンネル効果を利用しているデバイスにも適用可能であり、量子輸送モデルを用いて動作限界を評価可能になれば、そういったデバイスの物理的特性の理解や動作予測にも貢献できると考えられる。
 今後は、RTDの物理的特性の解明のためにより精度の高い測定および量子輸送モデルの高度化や、提案した解析手法のRTD発振器への適用、RTDによる検波器の作製・測定を行うことなどを検討している。

●廃材のリサイクルに向けたHHP法による再生構造材の開発と材料特性の解明
・実施期間:2024年4月~2026年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 杉本 聖一
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 1年 海津 一太
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 小林 訓史
【学生】
都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 苅谷 香槻
都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程1年 木下 真衣
都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程1年 大串 晃志郎

研究成果
 現在、持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、木質材料が注目されている。木材はプラスチックとは違いカーボンニュートラルな素材であり、また自然環境下で分解されるため、マイクロプラスチック問題のような生物への悪影響を及ぼさない優れた材料である。特に日本では家屋の多くが木造住宅であり、その廃木材はほとんどがバイオマス燃料としてリサイクルされている。一方で廃木材を構造材としてリサイクルすることは可能であるが、木粉にポリプロピレン等を添加したウッドプラスチックや接着剤を添加して固化させた中密度繊維板(MDF)など、限られた方法しかない。これらの方法では化石燃料由来の樹脂類を添加材として用いるため、廃棄や再リサイクルが困難であるが、木材単体でのリサイクル構造材は現在のところ存在しない。また、ウッドプラスチックやMDFでは曲げ強度が30~35MPa 程度で、木材本来の強度(ヒノキ材で平均約45MPa)を下回っている。
 上記の問題に対し研究代表者らは、水熱ホットプレス(HHP)法を用いることによって、木材単体を原料とする高強度でリサイクル性の高い構造材の作製を試みてきた。作製した木質構造材は曲げ強度が最大で約70MPaと木材本来の強度を上回る優れた構造材であり、さらに原料が木材に含有する物質のみで構成されているため、この構造材を再リサイクルして再度、木質構造材を作製することも可能である。一方で、HHP法を用いて木質構造材を作製した事例はこれまでにほとんど報告がなく、どのようなメカニズムで木質構造材の材料特性が変化しているのか、未だ明らかになっていない。本年度は原料の繊維状態と曲げ試験後の破断面の状態を電子顕微鏡とマイクロスコープを用いて観察し、原料の繊維状態が作製した木質構造材の力学的特性にどのような影響を及ぼしたかを明らかにした。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究代表者(学生)は本科5年生で卒業研究発表を行った経験はあるものの、学会等での発表経験はない。したがって国際会議での発表に向けて今年度は国内学会発表での経験を積み、各専門分野における作法やプレゼンテーションのまとめ方、発表の仕方などを修得した。今年度は1件の国内の講演会で発表を行った。 また、研究協力者(小林教授)の月例報告会に参加し、材料分野全般の知識の底上げを行い、さらに大学院生(研究協力者)の研究発表や自分の研究発表に対する質疑応答などから、これまでよりも広い視野で自らの研究を見つめ直すことができた。この成果は自らの研究の進展のみならず、後輩への研究に対するアドバイスや指導にも生かされている。年度末には本年度の成果の総まとめとして、専攻科特別研究Ⅰ審査会にて発表を行い、審査頂いた多くの先生方から発表手法、研究内容ともに「非常に優れている」との高い評価を頂いた。来年度の学位申請や国際会議に向けて、着実に研究成果を積み上げている。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
海津一太(専攻科生)、杉本聖一、田宮高信、鈴木拓雄、小林訓史、“梅埜、杉本、田宮、鈴木“ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響”第43回数理科学講演会(2024.8.21)

研究成果の社会還元、今後の展望について
 今回得られた研究成果の一部は既に第43回数理科学講演会にて発表しており、来年度は国際会議にて新しい知見も加えて発表する予定である。
 本年度の研究結果から、原料として使用したセルロース繊維の寸法や形状により、合成された木質構造材の力学特性に大きな影響を与えることがわかった。特に繊維長を長くすることで、従来の木質構造材には無かった本物の木材のような”しなり”を持たせることができる。この結果をさらに発展させれば、複数回再生可能な高強度・高靭性なリサイクル木質構造材の開発に向けて大きく進展することが期待される。

●非侵襲な手指力覚センシングを用いた技術伝承支援システムの開発
・実施期間:2024年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 情報通信工学コース 教授 山本 昇志
【学生】高専 創造工学専攻 情報工学コース 2年 菊地 友央
・研究協力者:
【教員】
都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 長谷 和徳
都立大学大学院システムデザイン研究科情報科学域 准教授 下川原 英理
【学生】都立大学大学院システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 原 優世

研究成果
 製造業における技術者の高齢化・人手不足が進行しつつある現在、熟練技術者の技巧継承への技術的支援が重要となっている。特に巧みや技の定量化には手指動作の把握が重要なため、データグローブ等を用いた動作解析などの従来研究が報告されている。しかしながら、従来手法では現場での使用に制約が生じるため、非侵襲な方法で手指動作を可視化・データ化する手法の開発が求められている。そのため、本研究では指動作時の腕の筋肉の変化に着目して、腕周りの圧力変化から指動作を推定する手法を開発した。また圧力センサを円環状にすることで設置位置に依存しない測定システムを構築した。
 具体的に指動作推定においては、それぞれ単独屈曲した場合の指の特定精度は平均86.0%を実現しており、単一指の動作ならば比較的高い精度で推定が可能となった。また、指先にかかる力量の推定においては、実際の力量測定に対して誤差約10%以内での力の推定が可能となった。これら成果は国際会議3件、国内学会1件で発表を行い、うち国際会議の1件でBest Demonstration Award、国内学会で口頭発表優秀賞を頂いている。
 今後の展望としては、技術伝承における熟練技能動作に対して提案手法を適用することで、暗黙知の定量化を進めていく。更に手指リハビリテーションなど、動作や力量を非侵襲的に測定が必要な応用への展開も検討していく。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 非侵襲な手指力覚センシング技術を、都立大の支援を受けて短期間で確立することができた。また、その成果を国際会議や国内学会で発表して、国内外の研究者から研究に対する評価と、客観的改善点の指摘を受けるなど、研究者としての基礎的な事項を獲得することができた。代表学生は無事に専攻科を修了し、今後は都立大の大学院で研究継続する道に至る育成成果も得ている。学位取得:2025年3月16日。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
[1]Tomoo Kikuchi, Shoji Yamamoto, Eri-Sato Shimokawara, Quantification of Force Myography-based hand power Dynamics, International Symposium on Community-centric Systems and Robots (CcSR2025), poster, Toyota, Japan(Feb, 2025).

[2]Tomoo Kikuchi, Eri Shimokawara, Kazunori Hase, Shoji Yamamoto, Quantification of Kinesthetic Motion and Power by Using Hand Force Myography, The 31th International Display Workshop(I4D Contest), I4D-4, Sapporo, JAPAN(Dec, 2024).[Best Demonstration Award]

[3]菊地友央,山本昇志, 原優世, 下川原英理, 長谷和徳,手指リハビリテーションのためのForce miographyを用いた手指動作推定手法の開発,第34回 日本保健科学学会学術集会, Vol.27, O-5, p.13 (2024.10.19, 東京).【口頭発表 優秀賞】

[4]Tomoo Kikuchi, Yuse Hara, Kazunori Hase, Shoji Yamamoto, A Finger Classification System with FORCE MYOGRAPHY, 19th International Symposium on Computer Methods in Biomechanics and Biomedical Engineering(CMBBE2024), B21, Vancouver, CANADA(August, 2024).

研究成果の社会還元、今後の展望について
 非侵襲な手指力覚センシングシステムを完成させ、指の折り曲げ動作や指先での押し力量を正確に測定することができた。更にはこれらシステムを技術伝承に関連付けるため、実際のやすりかけ動作などの分析を行い、測定仕様を明確化することができた。また、研究成果を国内外で公表することにより、本法人のプレセンスを高めると共に、本分野での技術革新に貢献できたと考える。今後は開発したシステムを技術伝承の暗黙知定量化などに適用することで、技術立国日本におけるノウハウの定量化などに適用していく所存である。

●粘菌モデルにより構成されるネットワークの耐故障性
・実施期間:2024年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 電気電子工学コース 教授 山本 哲也
【学生】高専 創造工学専攻 電気電子工学コース 2年 河戸 幾利
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院システムデザイン研究科情報科学域 教授 會田 雅樹
【学生】
都立大学大学院システムデザイン研究科情報科学域 博士前期課程2年 本間 祐貴
都立大学大学院システムデザイン研究科情報科学域 博士前期課程2年 須貝 勇也

研究成果
 交通網や電力網・通信網など、現代社会に欠かせないインフラのネットワーク設計において、低コストで高い輸送効率を実現することは、重要な目標の一つである。その一方で、コスト抑制による冗長性削減により、ネットワークの耐故障性の低下が懸念される。非常時での通信障害や交通麻痺などのリスクを低減するためには、耐故障性も考慮したネットワーク設計が求められる。
 そこで、本研究では、Zhangらによって提唱された粘菌中心性を用いて、ネットワークにおけるノードの耐故障性や輸送効率を定量的に評価する手法の有効性を検証した。粘菌中心性とは、手老らによって提案された粘菌アルゴリズムを対象ネットワークに適応し、各ノードの輸送量をもとに算出する中心性である。本事業では、ユニットディスクグラフやスケールフリーネットワークなどを対象に、数値シミュレーションを行った。その結果以下のことを確認した。輸送が集中するクラスター間の橋渡しノードが、高い粘菌中心性を示した。また、各種中心性指標の低い順でノード除去を行い、始点終点間のコンダクタンスを調べた。その結果、どのノード除去率においても、粘菌中心性指標の結果が高いコンダクタンスを示した。これらのことから、粘菌中心性が、各ノードの輸送に対する寄与度を評価する有効な指標であることが示唆された。また、粘菌アルゴリズム適応後の各リンクのコンダクタンスを重みとした重み付き次数中心性を用いることで、粘菌中心性と同程度の結果を示すことも確認した。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究代表者の学生は、本事業により都立大学の研究協力者と定期的な議論を重ねることで、研究を着実に発展させた。そして、国内学会発表3件、国際会議1件の発表を行った。まずは、国内での学会発表および資料作成をすることで、自身の研究結果に基づき論点や主張を明確にしてプレゼンすることを意識できるようになった。そして、研究内容を英語でまとめ、国際会議(Complex Networks 2024)に Full Paper として申込み採択された。学会発表では、様々な研究者と意見交換を実施することで刺激を受け、研究をすすめる上でも良い経験になったようであった。また、研究成果をまとめ、特別研究Ⅱの発表を行い、大学改革支援・学位授与機構から学士(工学)を取得した。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
・Evaluating Node Contribution in Network Path Transport Using Physarum Centrality, K. Kawato, T. Yamamoto and M. Aida, The 13th International Conference on Complex Networks and their Applications, 2024(December)
・粘菌アルゴリズムを活用した輸送におけるノードの寄与度評価, 河戸幾利,山本哲也,会田雅樹, 第20回ネットワーク生態学シンポジウム,2025(3月)
・粘菌中心性を用いたネットワークの輸送におけるノードの寄与度評価, 河戸幾利,山本哲也,会田雅樹, 電子情報通信学会総合大会,2025(3月)
・粘菌中心性を用いたネットワーク経路の輸送効率評価, 河戸幾利,山本哲也,会田雅樹, 2024年電子情報通信学会ソサイエティ大会,2025(10月)

研究成果の社会還元、今後の展望について
 交通網や電力網・通信網などのインフラネットワークにおいて、低コストでかつ、非常時でも高い輸送効率を維持することが求められます。本研究では、ネットワーク輸送における各ノード(拠点)の寄与度を定量的に評価する指標として粘菌中心性を検討しました。災害時などの緊急時には、物資輸送や電力・通信網が寸断される可能性があります。本研究の結果から、粘菌中心性指標によりネットワーク全体の輸送維持に不可欠な拠点を事前に特定可能であることが示唆されました。これにより、重要拠点の補強や優先的復旧計画の策定する上で本指標が有効であり、非常時でも安定したインフラ運用を実現する基盤を提供できると考えられます。今後は、粘菌中心性に基づきネットワークを補強をする手法について検討します。

●触覚刺激を用いた自己運動感覚による自動車運転時の速度感の制御
・実施期間:2024年4月~2026年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 古屋 友和
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 1年 新井 慶
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授 樋口 貴広
【学生】
都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 博士後期課程3年 坂崎 純太郎
都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 博士後期課程1年 日吉 尚輝  
都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 博士後期課程1年 広崎 蒼大

研究成果
 自動車は、人々の生活を豊かにしている一方で、交通死亡事故という日常でいつでも起こりうる問題がある。その交通死亡事故の原因者によくみられる違反として速度超過があり、走行速度が時速30kmを超えると致死率が高くなることがわかっている。死亡事故を減らすためには、運転者に規定速度を超過させないことが重要であり、ドライバーが知覚する速度感を制御することで速度超過を抑制することを検討した。本研究では、触覚刺激が動いて知覚される触覚の仮現運動を与えることで自己運動感覚を増強させ、速度感を制御させる。触覚刺激は、車両走行中のオプティカルフローの方向に近い手首から肘、肩へ時間差で刺激を与えた。まず、ドライビングシミュレータを用いて視覚から知覚される速度感と触覚から知覚される速度感の関係性を調べた結果、それぞれに相関関係があることを確認できた。次に、視覚から知覚される速度に対して、速くもしくは遅く知覚される振動刺激を与えることで、速度感の変化を調べた。その結果、振動刺激の速度感に応じて視覚から知覚される速度感よりも速く(遅く)知覚されることが確認できた。この結果は、触覚の仮現運動の速度変化により、ドライバーの速度感を制御できる可能性が示唆された。今後は、振動刺激のパターンを増やして心理物理実験を行い、視覚と触覚による速度感のより詳細な関係を確認する。そして、実際に速度超過の発生する運転シーンにて、本手法によるドライバーの速度超過の抑制効果を確認する。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究代表者(学生)の育成状況は概ね順調である。まず、研究協力者の研究室へのインターンシップを通じて、認知心理学を中心とした実験・分析手法を身に着け、大学院の勉強会にも参加し、知覚運動制御についての知見を深めた。また、速度感制御の実験を行い、その結果の一部を国内学会のシンポジウムにて発表した。実験の振り返りや学会発表でのフィードバックに基づき実験手法を変更し、再度、速度感制御の実験を行った。その結果を学術論文としてまとめており、次年度投稿する。今後は運転姿勢の違いによる速度感の違いについて実験を行い、国際会議にて発表する計画である。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
[1] 触覚刺激を用いた自己運動感覚による自動車運転時の速度感制御の検討,新井慶,古屋友和,坂崎純太郎,日吉尚輝,広崎蒼大,樋口貴広,ヒューマンインタフェースシンポジウム2024,2024年9月.

研究成果の社会還元、今後の展望について
 自動車は、人々の生活に欠かせないものになっているが、交通事故は避けられない課題である。自動車の死亡事故において24.7%が規定速度を超過した事故になっており、規制速度を超過した交通事故の死亡事故率は超過しない交通事故の死亡事故率の9.2倍に及ぶ。本研究の成果により、ドライバーの速度感を調整することで速度超過を抑制できれば、致命的な事故の低減に貢献できる。また、自動車とドライバーとのインタラクションの中で、速度を直観的に伝達させる手法はないため、新しいHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)の技術として工学的発展の寄与に貢献できる。

●骨再生scaffoldへの応用を目指したリン酸カルシウム系多孔体の機械的特性の向上と生体親和性評価
・実施期間:2023年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 杉本 聖一
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 1年 小薗井 一輝
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 小林 訓史
【学生】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士後期課程3年 図所 優羽
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 関根 たくみ  
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 清水 康佑
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 苅谷 香槻

研究成果
 近年、高齢化社会の進展にともない、骨疾患などによる骨欠損が増加している。骨は欠損部では骨再生が起こらず、骨細胞や血管が成長する足場材(Scaffold)が必要である。骨再生の足場材は主に自家骨と人工骨があるが、自家骨は自身の骨を取り出して移植するため侵襲性が高く負担が大きい。このため、特に高齢者の骨再生手術には自家骨移植は向かないとされている。臨床実績の豊富さから従来は自家骨移植がスタンダードであったが、前述の問題や人工骨材料の改良もあって人工骨移植が急増しており、2006年で既に移植の40%以上が人工骨に置き換わっている(占部ら,2006)。骨再生scaffoldとして開発されたのがリン酸三カルシウム(β-TCP)を多孔質化したオスフェリオン(R)(オリンパステルモバイオマテリアル(株))である。β-TCPは生体内で分解され最終的には完全に生体骨に置き替わるが、初期強度が低いという問題点があり、気孔率を上げることができない。骨再生scaffoldは一般に多孔体であり気孔率が高いほど骨再生能に優れるため、高強度と高気孔率を両立させることは極めて重要である。こうした問題に対し、本研究グループは水熱ホットプレス(HHP)法と呼ばれる特殊な合成・成形方法を用いて、β-TCPと水酸アパタイト(HA)を複合させた多孔質複合材料を合成することに世界で初めて成功した。これはβ-TCPの欠点である強度の低さを、より高強度なHAと複合して解消することを狙っている。
 本年度の研究では、より反応効率を高めた新規HHP装置を使って試料の作製を行い、高強度と高気孔率の両立に向けた適切な合成条件について調査を行った。その結果、新規HHP装置で合成を行った場合、反応が高効率であるために粒子の結晶化や粒成長が進み、かえって本焼結での焼結が進まないことが明らかになった。また、従来のHHP装置の好適条件で合成すると、粒子間の緻密化が進まず機械的強度が低下する現象が見られた。これにより、新規HHP装置の好適条件は従来の合成条件とは全く異なっており、新たに調査をする必要があることが明らかになった。
 さらに、生体親和性評価の前段階として骨芽細胞の細胞培養が可能な環境構築とその手法を習得し、実際に骨芽細胞を培養することに成功した。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究代表者(学生)は昨年度までに国内学会発表での経験を積み、各専門分野における作法やプレゼンテーションのまとめ方、発表の仕方などを修得した。今年度は1件の国際会議で発表を行った。国際会議での発表にあたっては英文でproceedingsを作成し査読に合格したのち、最終版の原稿を作成し、発表日には英語で発表と質疑応答を行った。1月末には本年度の成果の総まとめとして専攻科特別研究Ⅱ審査会にて発表を行い、審査頂いた先生方の多くから発表手法、研究内容ともに「非常に優れている」との高い評価を頂いた。その後、特別研究Ⅱの論文を完成させ校内での審査に合格するとともに、学位申請を行って学位を取得できた。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
Kazuki OSONOI, Seiichi SUGIMOTO, Takanobu TAMIYA, Takuo SUZUKI, Satoshi KOBAYASH, “Study of improving the strength and porosity of HA/β-TCP composites by changing the water contens in HHP synthesis”, 35th 2024 International Symposium on Micro-NanoMechatronics and Human Science(23. Nov. 2024)

研究成果の社会還元、今後の展望について
 今回得られた研究成果の一部は、既に国際会議(MHS2024)にて発表済みであり、その中で国内外の多くの研究者とディスカッションを行っている。
 研究代表者らはこれまでにHHP装置を用いて、従来の多孔質骨補填材の強度や気孔率を上回る多孔体の合成に成功してきたが、最終的な目標値(圧縮強度10MPa以上、気孔率70%以上)には今だ到達し得なかった。その最大の問題は従来のHHP装置の合成反応の不均一性であり、これを改良した新規HHP装置を提案し、製作を行った。本年度の研究では新規装置での適切な合成パラメーターを明らかにすることはできなかったものの、従来の装置よりも反応効率が上昇し、HHP工程後の結晶性や結晶粒径が向上したことは確認できた。新規装置における好適な合成条件が明らかにできれば、今後、高強度・高気孔率な骨補填材の開発に向けて大きく進展することが期待される。

●視覚・動作誘導による自動車の乗降支援の研究
・実施期間:2023年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 古屋 友和
【学生】高専 創造工学専攻 電気電子工学コース 1年 岡根 永将
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授 樋口 貴広
【学生】
都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 博士後期課程3年 菊地 謙
都立大学大学院人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 博士前期課程2年 坂崎 純太郎

研究成果
 自動車の乗降は、車の使用において最も身体的負荷の大きい動作であり、特に筋力の弱い高齢者には大きな負担となっている。乗降時の負荷を低減させることにより、今後の高齢社会にむけた生活の質の維持・向上への貢献に期待できる。乗降性の研究は、その殆どが動作の分析であるが、狭い場所に入るなど姿勢変化して移動するには、状況を知覚して行動を予期的に調整する必要があり、その調整には、視覚情報が重要な役割を持っている。そこで本研究は、視線に注目し、乗車時の視線と動作の関係とその特徴を明らかにし、その特徴を用いて身体的負荷を低減させる方策を検討する。
 様々な動作モードが存在し、視線移動が多いことが予想される乗車を対象として、その視線と動作の関係を調べた。その結果、視線行動は3つのグループに分かれ、それぞれの視線行動に対応した全身動作の特徴を確認した。1つ目のグループは、車内空間を主に注視しており、動作を分析したところ、上体を後傾して乗降する傾向であった。2つ目のグループは、車内フロアを主に注視しており、動作は全ての被験者が前傾姿勢をとっていた。障害となるルーフを注視せず、周辺視で確認していたと考えられる。3つ目のグループは車内フロアを主に注視していたが、車内空間・ドアも注視しており、動作は上体を側方に傾ける姿勢で乗車していた。以上より、視線の動きから全身動作の傾向がわかることが確認できた。次に、障害となるルーフと足元に注意すべきフロアにそれぞれLEDを点灯して視線誘導させることで、乗車動作がどのように変化するか確認した。2つのグループにて、ルーフにLEDを点灯することで視線誘導はされないものの上半身を後傾する動作が確認された。しかし、衝突を回避する動作ではあったが、不安定な後傾姿勢になっていたことが課題となった。以上より、視覚的な情報を与えることによる動作変化の可能性を示すことができ、今後は身体的負荷の少ない姿勢へ誘導するLEDの配置の探索を進め、視覚誘導のみでの動作誘導が難しい場合は、身体を支持するグリップ等を用いて手の位置から最適動線かつ負荷低減する動作誘導を試みる。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究協力者の都立大 樋口教授の研究室へのインターンシップを通じて、視線挙動と全身動作の測定・分析方法を身に着け、勉強会にも参加し、知覚運動制御についての知見を深めた。卒業研究で得たデータを研究協力者の知見を参考に再分析し、その結果を日本人間工学会 第65大会にて発表した。そして、自動車乗降時の視線挙動と全身動作の実験を行い、その結果を15th International Conference on Applied Human Factors and Ergonomics(AHFE 2024)にて発表した。国内学会、国際会議での発表を通じて、教員や博士課程の学生より指導を受けて、論文の論理的な展開や英文表現について学んだ。さらに自身で自動車のモックアップやマイコンを活用したLEDの点灯装置を製作し、また、データサイエンス手法を用いた分析も行うなど工学的スキルも身に着けた。学位申請も無事に完了し、学士(工学)の学位を取得することができた。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
[1] 視覚情報の変化が自動車の乗車動作に及ぼす影響, 岡根 永将,古屋 友和,坂崎 純太郎,菊地 謙,樋口 貴広.日本人間工学会第65回大会, 2024年6月

[2] Relationship between gaze behavior and whole-body movement during car ingress, Eisuke Okane, Tomokazu Furuya, Juntaro Sakazaki, Ken Kikuchi, Takahiro Higuchi, 15th International Conference on Applied Human Factors and Ergonomics(AHFE 2024), July 2024

研究成果の社会還元、今後の展望について 
 本研究の技術の確立により、自動車の乗車において車体と接触しない安全な動作や身体的負荷の低減などが期待できる。また、階段や段差の乗り越えなど建物内での支援、ベットから車いすへの移乗支援などユニバーサルデザインや福祉機器に向けて幅広く応用可能なため、将来の生活支援の基盤技術として工学的に多様な発展に寄与できるものと考える。

●ポリマーブレンドによるポリ乳酸の成形性の改善と機械的特性への影響に関する研究
・実施期間:2023年4月~2025年3月
・研究代表者:
【教員】高専 医療福祉工学コース 准教授 杉本 聖一
【学生】高専 創造工学専攻 機械工学コース 1年 梅埜 耕
・研究協力者:
【教員】都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 教授 小林 訓史
【学生】
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士後期課程3年 図所 優羽
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 関根 たくみ  
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 清水 康佑
都立大学大学院 システムデザイン研究科機械システム工学域 博士前期課程2年 苅谷 香槻

研究成果
 近年、マイクロプラスチック問題や環境負荷の高さから世界中で脱プラスチックの動きが高まっている。従来のプラスチックが多くの問題を抱える一方、生分解性プラスチックは自然界の微生物によってCO2と水に分解される性質を持ち、さらにバイオマス由来であればカーボンニュートラルの特性も併せ持つことから、プラスチック代替材として大きな注目が集まっている。中でも、ポリ乳酸(PLA)は医療、自転車、電化製品、食品などの各産業で使用が始まっている。しかしPLAの応用範囲が拡大するにつれ、破壊特性に注目した研究も進んでおり、PLAは脆性的な破壊挙動を示すことが明らかになってきた。また、PLAは軟化点以上でも流動性が低く、射出成形により大量生産されるプラスチック製品としては大きな欠点を抱えている。こうした問題を解決するために当研究チームでは、これまでにPLAと同様の生分解性プラスチックであるポリブチレンサクシネート(PBS)をブレンドすることにより、強度向上と脆性改善の両立を試みてきた。その結果、ブレンドポリマーを特定の条件下で射出成形することで、高分子鎖の配向性を高め、高強度・高延性のPLA-PBSブレンドポリマーを作製することに成功した。
 しかしながら、従来用いてきたPBS(Bionolle™(昭和電工))は石油由来であるためカーボンニュートラルな素材ではない。そこで、本年度はバイオマスPBSのBioPBS™(三菱ケミカル)を使用して、射出条件の確立に向けてPLAとBioPBS™のブレンド比および射出温度の違いによる機械的特性や成形性への影響の調査を行い、PLA-PBSブレンドポリマーにおける成形性および強度と靭性の両立する射出条件を確立させることを目的に研究を行った。その結果、BioPBS™はBionolle™とはポリマーが結晶化する際の配向方向や形態が異なっており、また結晶化すると延伸による高分子鎖の配向効果を強く打ち消すことがわかった。したがって、BioPBS™をブレンドポリマーとして用いる際には、結晶化させないような熱履歴でブレンドと射出を行うことが必要であると明らかになった。

研究代表者(学生)の育成状況(論文、学位申請状況等含む)
 研究代表者(学生)は昨年度までに国内学会発表での経験を積み、各専門分野における作法やプレゼンテーションのまとめ方、発表の仕方などを修得した。今年度は1件の国際会議で発表を行った。国際会議での発表にあたっては英文でproceedingsを作成し査読に合格したのち、最終版の原稿を作成し、発表日には英語で発表と質疑応答を行った。1月末には本年度の成果の総まとめとして専攻科特別研究Ⅱ審査会にて発表を行い、審査頂いた先生方ほぼ全員から発表手法、研究内容ともに「非常に優れている」との高い評価を頂いた。その後、特別研究Ⅱの論文を完成させ校内での審査に合格するとともに、学位申請を行って学位を取得できた。

学会発表(発表題目、著者、発表大会名、年月を記入)及び学会の参加状況(発表を伴わないものも含む)
KO UMENO, SEIICHI SUGIMOTO, TAKANOBU TAMIYA, TAKUO SUZUKI, SATOSHI KOBAYASHI, “The effects of Injection Molding Temperature on Mechanical Properties of Poly(lactic acid)/Poly(butylene succinate) Blend Polymers”, 35th 2024 International Symposium on Micro-NanoMechatronics and Human Science (23. Nov. 2024)

研究成果の社会還元、今後の展望について
 今回得られた研究成果の一部は、既に国際会議(MHS2024)にて公開済みであり、発表時に多くの研究者とのディスカッションや意見交換を行った。
 本年度の研究により、BioPBS™は結晶化に伴い脆化し、延伸による配向効果を失わせることが明らかとなった。結晶化は冷却速度の上昇により抑制可能なことから、高温環境での射出成形の後、迅速に冷却する方法を確立することでPLA-BioPBS™ブレンドポリマーの強度と延性、成形性の両立が将来的に期待できる。従来我々がブレンド材に用いたPBSはカーボンニュートラルではないため、完全なプラスチック代替材にならなかったが、本ブレンドポリマーはあらゆる面で既存のプラスチックに置き換わる性能を秘めている。現在、脱プラスチックの動きが加速する一方でその代替材の開発が十分に進んでいないが、本研究の進展がそのブレイクスルーとなる可能性がある。

お問合わせ先
東京都公立大学法人 経営企画室 企画財務課
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