気候非常事態宣言発出2周年にあたって

2023年7月16日

東京都公立大学法人
理事長 山本良一

 本法人は2021年7月16日、全国の国公立大学で初めて気候非常事態宣言を行いました。
 それから早くも2年が経ちましたが、昨年から今年にかけて気候非常事態宣言を発出した大学には、バーミンガム大学(英国)、サラマンカ大学(スペイン)、シリマン大学(フィリピン)、サイモンフレーザー大学(カナダ)、エラスムス大学ロッテルダム(オランダ)などがあります。また、国内自治体においても、東京都日野市(2022年11月6日)や滋賀県米原市(2023年3月28日)などが宣言を発出し、気候非常事態に対する高い関心と、直ちに行動が必要であるという意識は今も国内外で拡がり続けています。 CEDAMIA(世界の気候非常事態宣言のデータを収集、公表しているオーストラリアの民間組織)によれば、日本における宣言数は135です(7月5日現在の国・自治体の合計値。)。全世界では40ヶ国で、2,337の国と自治体が宣言を行っています。また、環境省によれば、2050年二酸化炭素排出実質ゼロを表明した国内自治体は2023年6月30日の時点で973に達しています。大学においても2050年カーボンニュートラル宣言をしている大学は増加しています。

 世界の気候非常事態宣言のピークはコロナパンデミック等の影響もあり、一見過ぎたかに見えますが、気候危機の深刻化に伴って再び活性化する可能性があります。実際、地球の気候システムが崩壊しつつあることを示す兆候や研究が日常的に報告されています。 例えば、この1年間で次のような観測結果などが報じられています。

  1. 2022年7月のヨーロッパでの熱波発生。英国の熱波の発生確率は気候変動で10倍に高まった。
  2. 北極圏の温暖化は世界の4倍の速さで起きている。北極海氷の体積は過去40年間で75%減少し、2023年は世界の海氷面積がこれまでで最小になる。夏の北極海氷は2035年頃には消失する可能性がある。
  3. 温暖化によって35億人を熱波が襲い、気候難民が2050年に2億人に達すると予測されている。
  4. 西南極大陸のスウェイツ氷河があと5年程で大崩壊開始の可能性がある。
  5. 2022年9月に公表されたマッケイ(David I. Armstrong McKay)らによる気候転換点(CTP、気候システムの崩壊を止められなくなるポイント)の再評価によれば、既に以下の5つが転換点を突破した可能性がある。
    • グリーンランド氷床崩壊
    • 西南極大陸氷床崩壊
    • 熱帯サンゴ礁枯死
    • 北方永久凍土崩壊
    • ラブラドル海対流崩壊
  6. 2023年6月に日英両国で気候転換点に関する国民の意識調査が報告された。気候転換点を知らなかったと回答した割合は英国の約25%に対して、日本は約80%だった。日本の気候危機に対する意識の低さが懸念される。
  7. 2023年6月の北米上空のジェット気流の南部は完全に崩壊し、異常な熱波を引き起こしている。率直に言ってゴッホの絵を見ているようだと評されている(マイケル・E・マン)。
  8. 5年以内に世界の年間平均気温はパリ協定の1.5℃目標を一時的に突破する可能性が高いと予測されている。

 さらに、これまでの世界の平均気温における最高温度は2016年夏の16.92℃でしたが、今年7月3日に17.01℃、翌4日には17.18℃を記録し、最高温度を更新しました。私たちは恐るべき時代を生きていることは間違いありません。(有名な気候科学者フリーデリケ・オットーは「これは人々と生態系への死刑宣告だ」と発言しています。)

 このように地球の気候システムが崩壊を始めるなかで、本法人は宣言発出後、学生・全教職員の協力を得て、一例ですが、次のような取組を精力的に推進し成果につなげてまいりました。

  • カーボンニュートラル推進プランの作成と公表
  • 環境報告書の作成と公表
  • TMUサステナブル研究推進機構でカーボンニュートラルとSDGsに関する一連の研究を推進
  • 気候非常事態宣言をした関西大学とシンポジウムを共同開催

 また、昨年度は、英国オックスフォード大学などに気候変動対策や環境マネジメントの調査のために職員を派遣しました。今年度はアラブ首長国連邦(UAE)でCOP28が開催されますが、COP28では教育パビリオンの創成が発表されており、既に準備の一環としてグリーン教育パートナーシップロードマップを公表しています。こうしたことから、本年も職員を派遣することで、世界における最新の気候変動対策や議論を学ぶとともに、海外の高等教育機関とのつながりを得たいと考えています。

 本法人のカーボンニュートラル/SDGsへの取組は緒についたばかりでありますが、世界では、気候システムの崩壊を止められなくなる気候転換点を超えてしまうまで、残された時間は10年程度と考えられています。 公立の高等教育機関としての社会的責任を果たすために、本法人の全教職員が一丸となってこの危機に立ち向かうべく、取組を前へ進めてまいります。

「東京都公立大学法人 気候非常事態宣言」 (英訳付)